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    間もなく房一は別れを告げ、庭前で又馬の前に立つて二三の話をし、相沢の家を立去つて行つた。相沢のやうな家を患家に持つことは、十軒もの小患家を得たに匹敵すると、ひそかに満足しながら。そして、今日のもてなし方から考へると、医者として十分好意を与へたにちがひない、といふことにも満足しながら。

    「あら!いらつしやいませ。ようこそ。――ほんとうに、よくまあ!」

    「うむ、わしか」

    今泉はかすかに鼻のあたりを不満げにふくらませた。

    「分家の当主は今は、若い人の代で、たしか喜作といふ筈ですが、あれも随分永いこと県外に出ているさうですな」

    「フム」

    徳次はしばらく考へていた。

    「まあ、――上の町の大石さんとこ位は行つとくのもよからうが」

    「うん、ドイツ兵の捕虜だ」

    「どうしませう、ほんとうに!すつかり落しておしまひになつたんですのね。――どうも、さつきから様子がちがふと思つていたんですが、道理で!――さうでしたわねえ、お髯がなくなりましたわねえ」

    傍にいた赭あから顔の老人が低い声で云つた。

    「一昨年の水で流れちやつたからそのまゝになつてるね――ずつと下にはあるが、さあ、そこへ廻ると半路はんみち以上ちがふかな」

    「どういふことでせうね、まあ!」

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