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男は一歩下つた。
「いやあ、もう沢山ですなあ。さつきはどうも照れ臭くつて弱つたぢやありませんか。何と云つたつて、皆に顔を見られるんだから、たまつたもんぢやない。あんなに弱つたことは生れてからはじめてですよ」
「ふむ、毛嫌ひされて、孫ができてからやつとこさ婿養子になつたんだからね。――しかし、今ぢや正当な相続人だから、喜作さんに分けた分も自分の物だといふ理窟なんだね」
「杉倉まで――」
房一は生返事をしてからふり向き、うなづいて見せた。彼はよく聞いてはいなかつた。
「梨地から水神淵へ降りる路ができたからね、そこへ出れば、帰りはずつと楽だ」
「さう。――いゝやうだ」
向ふでも房一を認めたらしい。さう思はれる仕方で、ぐつと速力をゆるめながら、だんだん近づいて来る。はじめは房一の方にこらしていた目を途中で一寸伏せ、又何気ない風にこちらを眺めながら降りて来た。
「はあ、はあ」
「や、これは。高間さんですか。お久しぶりで」――「お忙しいですか」
「ほう。元気だね。ハッパでやられたかね」
「おつ」
と、舌ざはりの悪いものでも口にしたやうな調子で、練吉はぽつんと云つた。
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