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練吉はそこで房一について廻つたばかりでなく、角屋までもくつついて来た。そして、同じやうについて来かけた徳次を見ると、
「おい、ビールをくれ」と、しやがれた低い声で云ふと、土間の安テーブルの前に腰を下した。
と、道平は明かに盛子に気兼ねをしているらしかつた。
「ふむ、ふむ。――どなたでしたかね。お名前は?――ふむ、ふむ。――住所は?いや、字あざはどこでしたかな――ふむ、ふむ」
それから上着を脱ぐと、ワイシャツの袖をまくり上げて、診察にかゝつた。無造作にひよいと病人の瞼をつまみ上げ、めくつて、眼の色を調べた。半裸体のむき出しになつた腕をつかんで静かに屈伸させた。顔面の皮膚をひつ張る、足を立てさせる、今度は足の裏を見る、――それはまさに手慣れた、素速い、注意深い動作だつた。まさしく、医者といふものだつた。
「いや、あの晩の、ほんの三二日前です」
「どうしなさつた」
相手はさつきから黙つて、房一と徳次の様子を眺めていた。さすがに気が立つているらしく、節くれだつた手首を食台の上でこねるやうに動かしていた。そして、徳次よりもはるかに手答へのあるらしいこの男が何者か見究みきはめようとして、どこか気を配つた様子だつた。
その直造の耳には、次のやうな言葉が響いて来た。
「あら!いらつしやいませ。ようこそ。――ほんとうに、よくまあ!」
「さあ。どうぞ、どうぞ」
男はまだ立つて、あの話を持ちかける構へといつた風を持していた。
と、房一は練吉の顔を見て思ひ出したらしく、
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