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    笹の葉の下から現れたのは頭から尾まで黒々と廻り、全体に円味がつき、所々の鱗が金色に光つていた。

    「誰?相沢の知吉さんかね」

    「わたしやア――」

    房一は持前の人慣れた愛想のいゝ微笑をうかべていた。それは水面にできた波紋がゆるく輪をひろげるやうに、彼の厚い醜い唇からはじまつてしだいに、顔全体をつゝみ、つひに容貌の醜さを消してしまふものであつた。

    「何しに来た?」

    「ねえ。――はやく。――患者ですわ」

    「このまゝでは責任者を出さなくてはならなくなる。手落ちは向ふにあるとしてもですよ」

    「おぢいさん、そんなに立つてばかりいないで腰をかけなさいよ」

    日々は平凡に単調に過ぎて行つた。

    たとい健康の人間でも、往復の長い時間をかんがえると、一泊や二泊で引揚げて来ては、わざわざ行った甲斐かいがないということにもなるから、少くも四、五日や一週間は滞在するのが普通であった。

    と、盛子は大げさに滑稽な顔をしてみせた。

    さうかと思ふと、朝早くから農婦たちが背中に子供を負ぶつてやつて来る。それが唯一の目的のときには恐しく早朝に出かけて来るのであつた。さういふ場合にかぎつて、房一は彼女等の背中に、熱ばんだ小さな顔を上向きにして喘あへぐやうな呼吸をしている幼児を見、その手遅れであることを認めるのであつた。

    「さうか、惜しかつたな」

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