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「やあ。――こちらへ」
築地には四五本の木材が立てかけられて、玄関に通じる石畳の上には鉋屑が一杯に散らばつていた。その白いのや紅味がかつた真新しい木の色はふしぎな生気をこの家に与へていた。あの低い大きな屋根がぐつと身を起したやうにさへ見える。
道平はまるで大きな輪がゆつくり廻つていて、その一点の結び目が眼の前に現はれたときにやつと口を開くかのやうであつた。
男は始めにびつくりさせられて、今さう聞くと多少のみこめて来た様子であつた。どこも悪くないと云はれたこともうれしかつたらしい。房一はその腕をひつぱつて顕微鏡の前につれて行き男にのぞかせた。
房一の出先きで起きたこと、何かしら普通でないその事を理解しようとして、盛子は房一の顔をまじまじと見まもつた。
「ホリョ?」
「いゝかね。あんたの身体はどこも悪くない」
「ふむ、ふむ」
「なに、切れてるつて?」
「はい、若先生に代りに行つてもらへとおつしやいました」
「あなたは、多分――」
と、何か文句にならないことを口の中で云つて、もう一度低いお辞儀をかへした。
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