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「や、皆さんどうも遅くなりまして――」
途中で練吉と別れた房一は、道平の病気のために手の廻りかねていた患家先きへ二三軒立ち寄つているうちに、案外時間を喰つて、帰途についた時はもう暮れ方であつた。
鬼倉は一瞬、相手を地着きのごろか何かと思つたらしい、一種の殺気をひらめかした。
「あの人はつまりこんな風な人なんだわ。こんな風に――」
「ね、君」
と、徳次は叮寧にならうとして一種奇妙な言葉づかひになりながら、
房一は目を上げて何か訊きたさうにした。それを押へるやうに、
うまい工合だと感じた房一はすかさず云つた。
「まあ、葉書でざつと町内に出しときましたがね」
「な」の字さんは翌年よくとしの夏にも半之丞と遊ぶことを考えていたそうです。が、それは不幸にもすっかり当あてが外はずれてしまいました。と言うのはその秋の彼岸ひがんの中日ちゅうにち、萩野半之丞は「青ペン」のお松に一通の遺書いしょを残したまま、突然風変ふうがわりの自殺をしたのです。ではまたなぜ自殺をしたかと言えば、――この説明はわたしの報告よりもお松宛あての遺書に譲ることにしましょう。もっともわたしの写したのは実物の遺書ではありません。しかしわたしの宿の主人が切抜帖きりぬきちょうに貼はっておいた当時の新聞に載っていたものですから、大体間違いはあるまいと思います。
房一はいくらかつんぼの道平の耳に口を寄せて、大声で云つた。
稍意地の悪い、きびしい調子であつた。
徳次はさきほど今泉が姿を現したずつと先の稍持上つて見える路面の白い輝きの方を、今にもドイツ兵達がぞろぞろ群をなして出て来るかのやうに眺め、それから熱心に今泉の眼の中をのぞきこんだ。
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