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「やつぱり徳さんが多いね」
「いや、高間さんは大漁ですがね。わたしの方はさつぱり駄目ですよ」
「ですが、一体財産譲渡つて云ふのはいつのことなんです、大分前ぢやないですか」
「あれですよ。半之丞の子と言うのは。」
「いや、私はすぐこの近くで医者をしとる、高間といふ者ですが」
はるか下流の方で、鈍いが、重味のある大きな音が響いたのだ。それは、はじめぼおーんといふ風に聞え、つゞいてドカンドカンと来た。
若しもこの時誰かが、この男、徳次に向つて君はこの奥さんの幼い時に抱いたり負んぶしたりしたことがあるのかねとからかひ半分に訊いたら、彼は本気になつて考へこみ、何かしらそんなことがあつたやうに思ひ出し、信じこんだかもしれない。何しろ彼は房一とあんなに親しかつたのだ。盛子はその房一の奥さんだつた。してみれば、やはり古い以前から知つているも同然ではないだらうか。抱きかゝへてあやしたこと位あるかもしれない。
「それが、その、来ないわけがあるのさ」
徳次はいつのまにか腕組みをしていた。あのあてずつぽうな、そゝつかしい、力りきんだ様子が現れていた。
それから、房一は歩きながら漠然とした沈思に落ちた。
と、相手は慌ててその筒抜けな声を庫裡の居間に向けて放つた。
温泉宿へ一旦いったん踏み込んだ以上、客もすぐには帰らない。宿屋の方でも直すぐには帰らないものと認めているから、双方ともに落着いた心持で、そこにおのずから暢のびやかな気分が作られていた。
「あの、さきほど往診に出かけましたさうで」
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