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「さうです」
房一も口少なに、親しげに徳次を見まもつていた。子供の時とちつとも変りのない、きよろんとした大きな落ちつきのない眼、気短かさうな筋の立つた前額、うまく口のきけない、話すたびに何かにひつかゝつたやうな動きをする口もと、――それらは何もかも昔のまゝだつた。いや、それらの顔形は部分的には子供時分のものとはかなりにちがつていた。だが、目に入る顔形のそれぞれは、悉く何かしら思ひ出をよび起すものであり、それによつて顔形の奥の方に在るもの、かんしやく持ちで、へうきんで、人の好い徳次といふ子供を、その魂といつたやうなものを、ありありと浮び出させるのだつた。馴染深い、気の許せる、ふしぎな心の温味。
「あの山に田地を注ぎこんで裸になつたのは三人、わしも知つとる」
「ふむ、さうか」
小谷は不安げに呟いた。
それは正文にかゝりつけの患家だつた。
「去年はなかつたんですよ。何でも博労ばくらう同士のうちわ揉もめがあつたとかでね」
「いるかね。いたら、高間さんが御挨拶に見えたからと――」
「あいつももう仕かたがないのですよ。『青ペン』通いばかりしているのですから。」
「ふうん。ひどい奴だねえ」
看護婦がそつと上つて来た。
「うん、ドイツ兵の捕虜だ」
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