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    と、房一は小谷に向つて訊いた。

    「どうでした」

    房一の老父、道平が二三日前に倒れたのだつた。そして、今、練吉に対診を求めて来たのである。

    若しさうだつたら、そのまゝおとなしく坐つてはいられまい。それは、皆の前で公然と頭を押へられた所を自認するやうなものだ。前例にもなるだらう。一度きまつたとなつたら又打破るのは容易ではあるまい。それは、河原町で今後医者として立つて行けないことを意味する。頭を押へられたきり、ついには逃げ出すより他はないといふ破目に陥るだらう。彼は思つた。

    と訊いた。

    「やあ」

    「かりに、おれが真正面から反抗的に出て、それがために住みにくくなつたとしても、同じことだ」

    男は眼を閉ぢたまゝだつた。

    川では鮎漁がはじまつていた。

    「はい」

    が、その時、彼はすぐ傍でさつきから盛子がひろげたり畳んだりしている大きな紅い紙の袋みたいなものに目をとめた。

    「あれは何でせう、知吉さんといふ人は悪く云ふと娘をひつかけて相沢の家に入りこんだやうなもんでせう」

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