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道平は房一の後についてこの何もない座敷に入つて来たが、やはりあの子供じみたもの珍しさの色は消えなかつた。房一のすゝめるまゝに今度も腰を下さうとして、ちよつと尻はしよりに手をかけたが、そのまゝ止めて、ごく目立たない仕草で真新しい畳の上を避けながら、彼には坐り心地のいゝと見えた縁側で胡坐あぐらをかいた。
その場に居合せた道平を見かけても、小谷はあんまり紙衣裳に気をとられていたので、それが大病の後でやつと起き出した珍しい姿だといふことに心づかなかつた。が、大分たつて思ひ出した小谷は、
「はゝ、知つているな。よし、よし何もいやしない」
その時、突然練吉は、房一がさう云ひかけたまゝ当惑した表情になつたのを見た。
宿の者はこういっただけで、その以上の説明を加えなかった。伊助の報告もそれで終った。
「どういふことです、わたしにはさつぱり――」
「徳さんが、――今、そこに、おかみさんが来てるんですわ」
練吉は一人で感心し、それでも足りないと見えて、房一に呼びかけた。
これでは房一も後もどりしないではいられない。馬は今片耳を後に立て、時々それを動かせていた。それは見ているだけでも美しい生き物だつた。房一にはしなやかなだが強い張りのある首が疾駆の時にどんなに強く前傾し、どんなに直線的になるか、どんなに風を切り、どんなに躍動するか、まざまざと目に浮ぶやうであつた。
「もうこんなに暗くなつているのにね、何してるんでせう」
「もう着てみましたか」
「なにぶん山の中でございますから、折々にこんなことがございます。」
傍にいた赭あから顔の老人が低い声で云つた。
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