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私はもともとヌル湯好きで、いつまでつかっても汗のでない程度が好きだ。
「途中から帰つて来たんだよ」
「どうして?血はつゞいていなくてもこゝの家とは親類ぢやありませんか」
「うん、うん。あ、さうだ、顔を一寸洗はなくちや」
房一はその玄関土間に足を踏み入れて、
「先生お帰りになりましたかね」
「ドイツの潜航艇が又イギリスの商船をやつつけたさうですね。――なにしろ海の底をもぐつていて、ぽかつと出てくるんだからねえ、やられた方ぢやさぞおつたまげるだらうなあ」
徳次はしばらく考へていた。
「やつは、わつしの土方家業がえらい嫌ひでしてな」と、彼は云つた。
奇妙な貸家で、だいたい差配というものは家主に使われているのが普通のはずであるが、ここはアベコベに、差配が伊東で一二を争う金持で、御殿のような大邸宅に住んでいる。家主の方も相当な洋館にいるが、差配にくらべると、月とスッポンである。差配は七十ぐらいの老人で、市会議員で、土建の社長だそうだ。
「さあね、そいつは今のところ何とも判らんでせうな。何しろこの前に手をつけたのは十年前だつたでせうかね、その時の礦石のかけらも残つちやいませんよ」
こゝの当主はもう七十近い老人だが、まだ郡制のあつた先年まで郡の医師会長だつた人で、この地方での一二と云はれる有力者でもあつた。それに相当な地主だ。その政治上の勢力や小作人関係などからきている彼の家と患者との関係は一朝一夕になつたものではない。今では老医師の正文は半ば隠居役で、息子の練吉といふ若医師が診察の方はひきうけているのだが、中には「老先生の患者」といふ者もある位だ。
「さうです、小倉組の方ですな」
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