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    「一体どうしたというのだ。」

    「うん、あの程度だと別に影響はないんだらう」

    今度は、徳次も完全にびつくりしてしまつた。彼のきよろりとした眼には、どこか少し先きで火事があると聞いた時のやうに、何だか落ちつかない、興昧ありげな色が浮んでいた。

    「先生、どうしなさる?着て行きますかい」

    たしかに、「家」に関するかぎり、正文老夫婦が口を利くべきだつた。おかげで、練吉はかういふことにつきもののいざこざの矢面に立たなくてもいゝわけであつた。それから、どうなつたにしても練吉自身の責任は免れるといふものだつた。――「まさに、おれはこの年になつても子供だ。子供は親の云ふことを聞くものだ」と、練吉はいくらか小狡こずるく又いくらか皮肉げに傍観していた。

    「いやあ、全く」

    八月も末だつた。十日あまり思ひがけない涼しさがつゞいたので、このまゝ九月に入るのかと思はれたが、暑さは又ぶり返して、がまんがならないほどだつた。

    「や、皆さんどうも遅くなりまして――」

    と、房一が台所に声をかけた。

    「徳さん、君は草履ばきぢやないか」

    「だつて、喜作さんはこの土地にはいないでせう」

    「さうなんですよ。まあだ帰らないの」

    「往診ですか」

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