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徳次は慌てた。
「誰かと思つたよ」
「よし!」
この分では永くなりさうだと思つて、房一が腰を浮かし気味にすると、
彼は今泉からドイツ兵の捕虜と聞いたとき、かつて若い単純な頭にはげしい印象を灼やきつけられた、ロシア兵達の驚くべき腕の長さ、のろい大まかな身振り、何とも解しがたい瞬時に大きく開かれたり又縮まつたりする碧い眼や唇の動き、――それらは今徳次の目の前に突然鮮明な記憶をよび起したのである。
三間つゞきの奥座敷では蝋燭だの燈芯の明りで照し出された仏壇を前に、来客達が思ひ思ひの所にかたまつて坐つていた。
だが、さういふことは練吉は今まで考へたことがなかつた。その必要もなかつた。それは単に一つの習慣、彼自身のと云ふより、河原町に張りわたされているあの根深い習慣のおかげだつた。
「それぢや、向ふの座敷へ行つて少し休みませうか」
「やあ、おいでなさい。わたし、相沢です」
と云ったそうだ。
そこへは、案内も乞はずに、小谷吾郎が気がるに裏口から入つて来た。
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