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と、舌ざはりの悪いものでも口にしたやうな調子で、練吉はぽつんと云つた。
「何を云うとる。すまじきものは宮仕へ、といふぢやないか」
と、今やうやく気づいた盛子が叫び声をあげた。
彼は道平の息子で、且つ医者である。これほど病人にとつても周囲の者にとつても安心できることはなかつた。彼等は医者としても房一を信頼し切つていた。若し仮りに、房一が医者としての手落ちを来し、そのために死を招いたとしても、恐らく病人は安んじて瞑目したであらう。なにしろ、息子の手にかゝつていることだつた、これ以上の幸福があらうか――房一が診察している間ぢゆう、ぢつと身体を任かせ切りにしている道平の半開きの眼が、まだ口が利けないので、房一が何か云ふたびにうなづいて見せるその弱々しい、うるんだ眼が、さう云つていた。
あのことだな、と房一は思つた。訊いてどうかな、とは感じたが、相手があまりさつぱりしているので、
「大きいやつだねえ」
「――?」
「往診ですか」
「それは、まあ、都会風でいけばそれでいゝわけだが」
「いや、どうも」
「うむ、わしか」
「誰かと思つたよ」
と、声をかけたが、返事がなかつた。間を置いて、今度は高い声を出すと、しばらくたつて、横手の襖ふすまが殆ど音を立てない位にそつと開いて、半白の頭を円坊主にした、痩せて黄ばんだ皮膚の五十がらみの男が、きよろりと驚いた眼をして、口を半ば開けたまゝのぞくやうに現はれて来た。
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