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房一の顔は重々しい沈思の表情と太い興奮の色とで紅黒く、やはり膏汗が漲つていた。
「や、さあお上り下さい。さあ――」
「チブスじゃないです。医者は何とか言っていたですが、まあ看病疲れですな。」
と、練吉は、彼等のわきにさつきから立つていた今泉に向つて、揶揄やゆするやうに訊いた。どういふものか、今泉の紙衣裳はちつとも痛んでいなかつた。これといふ皺もついていなかつたし、木沓さへ完全であつた。冠をつけ、まだ笏を心持構へた恰好で、こんなに皆が疲れ切つた様子をしているにかゝはらず、今泉だけはその稍冷い感じのする四角な顎を生き生きとさせ、あのつまみ立てたやうな鼻髭さへ床屋から出て来たばかりのやうだつた。
「どうでせう。いつそあの障子も脇戸もとり払つて、曇り硝子に高間医院といふ字を抜きましてね、厚い二枚戸でも入れたら――」
「よく来て下さいましたな。何しろ不便なところですから、途中が大変だつたでせう」
練吉は眠気から覚めたやうに、
「まだ?ふん!よせ、よせ。阿呆らしい」
「ズブリと相手の眼の中へさしこんでしまつたさうでね。――親方すみません、とあやまつたと云ふんだが、どうもね、――何しろ他の人の見てる前でやるんだから、たまつたもんぢやない」
それがふしぎに思はれた。
「へえ、――どうもごていねいなことで――」
云ひながら、腹帯の中からまるで金入れとは思へない位に大きな蟇口をとり出すと、十円札を何枚かつかんでいた。そして、ろくに返事も聞かないで房一に押しつけた。
と、鬼倉はすつかり他意のない様子で答へた。
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