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町の一部では房一が「席を蹴立てて帰つた」といふ評判だつた。それが何か乱暴でも働いた、といふやうに伝つて、噂を聞いた老父の道平は河場からわざわざ様子を聞きに来た。
「さやうで御座りますか。お忙しいところを御苦労さまで」
「今日はほんの御挨拶に上つたので、いづれ又ゆつくり――」
と、小谷が云つた。
やがて、鈍のろい、呆ぼけたやうな返事をしながら、房一の湯上りでよけい赤紅あかく輝く顔がのぞいた。彼はゆつくりと兵児帯をまきつけていた。だが、その様子とはおよそ反対な強きつい、きらりと光る目で、盛子のうしろに、半泣きになつた、取乱した青い顔で立つている徳次の妻、ときを見た。
庄谷はあの冷笑するやうな白眼で、物好に訊きたがる人に答へた。
かうして、予定の時刻を大分遅れて小学校の校庭に辿りついた時には、腹は空くし全く放々の態であつた。が、遅れたのはその一隊ばかりでなく、所々で踊りを見せながら山車だしを引つ張つて来る組も、他にも大分遅れる組があつた。で、彼等は気をとりなほして万歳を三唱し、直ぐに思ひ思ひの所に散らばつて焚出たきだしの握飯をほゝばつた。もうこゝは町内であるから、たくさんの見物人が集つて来ていたが、午前の一歩きですつかりへこたれ、埃で顔が黒くなり、疲れた彼等は、そのおかげでもう照臭さも何もなかつた。
初めて胎児が動いたとき、何といふ快い驚きだつたらう、何といふ不思議な、又微妙きはまるものだつたらう。その生命に独特な閃くやうな動き、内側からかすかにお腹の皮をつゝぱるやうな気配がし、やがてふいにびくびくつとしたり、ひよつととまつたかと思ふと又はじめて、今度は一層力強く永くぐい、ぐい、ぐいとしたりする、そのうごめきはすでに完全な手足あるものとしての形を感じさせ、もう今から盛子に何かを要求し、甘えかゝつているかのやうであつた。
「あんたも、おめでたいさうで」
傷は三箇所を縫つた。
だが、このはてしのない遠慮深さは気持の悪いものではなかつた。
突然はじまつたこの二人の親密な往来を、小谷は苦笑しながら、半ば無関心で眺めた。女といふものは妙なことから仲よくなるものだ、と思つた。が、由子の口から盛子のことを聞くにしたがつて、彼は高間医院について満ざら他人でもないやうな気に自然となつた。
「うむ、判る?――ね?」
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