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    「さつき着いたばかりの新聞で見たんだがね、――堀内将軍がいよいよ凱旋されるさうだ」

    云はずと知れたことだ、といふやうに徳次はそのきよろりとした眼を上げて小莫迦こばかにした風に小谷を眺めた。大きい麦藁帽子を被つているので、小谷のやさしい顔立ちはひどく女らしく見えた。

    鍵屋の隠居神原直造は老来なほ矍鑠と云つた様子だつた。

    男はまだ立つて、あの話を持ちかける構へといつた風を持していた。

    「ほう、ほんに!みんなある」

    ――房一がさういふことを耳にしたのはごく最近である。しかし、いづれにしても房一には直接関係のないことだつた。

    ここの温泉は、私にも、いくらかヌルすぎる。というのは、胃のところが冷えてくる。けれども胃の上へタオルをのッけておくと、冷感が去るので、入浴しているうちは、たのしい。私は三十分から一時間、時には一時間半はいっていたこともある。だんだん、ねむくなる。枕があったら、このまま、ねむりたい、と思うことがあった。

    男は、びつくりしたやうに房一を見た。

    と、云つた。

    「ふうん。ひどい奴だねえ」

    今さつきまで誰もいなかつた通りの、ずつと先きの方から黒い人影が歩いて来るのである。袴をはいて小さな風呂敷包か何かを抱へている、そのやはり背高な、直立したまま急ぎ足に歩く恰好はまぎれもない町役場の書記の今泉だつた。

    「ねえ、大変!早く」

    房一は手答へのないのを感じた。

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