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    「それで、何かね。ドイツ兵は徒歩てくで通るんかね」

    半ば感心し、半ば疑はしさうに、彼は指を自分の眼に向けてみた。

    「なに、訴訟?」

    「ほう、さうか。それはちつとも知らなかつた」

    「途中から帰つて来たんだよ」

    今その文太郎が県会の視察旅行に出ていたので、法事の主人役は直造に廻つたのである。だが、文太郎はかういふ町内づき合をあまり好んでいなかつたから、たとへ在宅だつたにしても、直造は主人役を買つて出たであらう。

    「お前、往診に出てた?」

    が、練吉が駆け登つたのを見ると、先方の男は急に威丈高になつて怒鳴つた。

    たとい健康の人間でも、往復の長い時間をかんがえると、一泊や二泊で引揚げて来ては、わざわざ行った甲斐かいがないということにもなるから、少くも四、五日や一週間は滞在するのが普通であった。

    義母は明日も片づけ仕事が残つているので泊つて行くことになつた。

    一座はしづまり返つていた。何か緊迫した気配があつた。――とにかく、それは予定の中には入つていなかつた。こんな風に突然誰かが立上り、荒々しい声を張り上げ、何を云ひ出すか判らないのにぢつと膝をついて聞いていなければならぬとは!

    「なに、切れてるつて?」

    「さうです。農林学校の先生だとかをしていられると聞きましたが」

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