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道平は納得したやうにうなづいたが、又ゆつくり身体を坐りなほすのと一緒に、
「さうだね。まさか医者の家に古障子の玄関といふわけにもいくまいね」
「途中から帰つて来たんだよ」
「いゝかね。あんたの身体はどこも悪くない」
「あゝ、さうか。あゝ、さうか」
「ふむ、ふむ」
徳次はこの往診といふ言葉がさきほど河原で房一の口から聞いた時に突然耳新しく身近かに響いたのを思ひ出しながら、それを口にするのを楽しむやうにつけ加へた。
銅山が廃坑となり、時代が移ると共に、他所の町村が発展するのに河原町だけは産業的に衰微し、とりのこされたが、以前の天領気分は今でもなほこの町を中心とする一廓に残つていた。それは近くの村々から「河原風」と呼ばれていた。今でこそ「無暗と気位ばかり高くて能なし」の意味であつたが、当の河原町の人々は、それがどんな意味に使はれていても、腹の中では漠然とした自己尊敬の念を感ずるのであつた。
「いや、鳴つた。出張所の鐘がたしかに鳴つていた」
しばらく黙つていた後で、房一は
「あら、ほんとうに沢山とれたんですね」
「あ、さう云へば」
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