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そこには一人の男が顔を手拭で蔽はれたまゝ、一種普通でない様子で寝かされていた。手拭の下からは赤黒く汚れた額の一部と、土埃にまみれた頭髪とがはみ出していた。その傍には、やはり印袢纏着の真黒い顔の男がついて、ぽかんとして戸外を眺めていた。
かりるに当って女房が挨拶に行ったら、温泉のぬるいことを例外なく念を押して、
この路をそんな恰好で通るのは近くにある営林区署の役人か発電所の技手ぐらいのものだつた。だが、そのいづれでもないことは、段々近づくにつれて目につくあまり見かけない猪首のやうな肩つきと、自転車のハンドルにしがみついたやうに見えるその円まつちい体躯、それらの印象の与へるひどく不器用な乗り方などによつて、すぐと知ることができた。
房一は急いで膿盆をひきよせた。
日は高く上つて、噎むせるやうな温かい空気が、時々、風の工合で河原の方からやつて来た。徳次も切り上げて来た。三箇の魚籠びくを中にして、頭を並べて獲物を見せ合つた。
声をひそめて、富田が訊いた。
「昨日、君とこの奥さんがバスに乗るところを見かけたが、――」
すると、徳次はびつくりしたやうな眼で房一を見やつた。
「やあ。――こちらへ」
「それあ、さうだらうなあ。なんしろ広い海のこつた!――ねえ、君」
「よろしい。承知した」
と訊くと、遊び友達と河へ行つたといふ返事であつた。
「いや」
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