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    この時、練吉が又小耳にはさんで訊き返した。が、明かにそれはさつきの小耳訊きとは様子がちがつていた。殆ど一人で盃を傾けていたせいもあるが、つい今まで沈んでいた練吉は僅かの間に一足とびに深い酔の中に入りこんでいた。

    「さうかの。だが、さう云うても――」

    「なに、ろくでもない用事で帰つたもんですから、どこへも失礼していたんです」

    黒い影はぴよこりとお辞儀をした。それから台所から射す光りの中に全身を現すと、それを眩しがつているとも照れたとも見える表情を浮べながら近づいた。

    「どうもこれぢや――」

    喜作はふりかへつた。そこへ房一も登りついた。三人は瞬間顔を見合せた。そこに、房一は自分よりは二つ三つ若い、だが禅坊主のやうな頭骨をした精悍な表情の神原喜作を見た。

    それは初めて口に出す言葉だつた。

    「先生お帰りになりましたかね」

    「はあ、どうも」

    「よし、それでは預つとかう」

    「なあ、先生」

    と、徳次は叮寧にならうとして一種奇妙な言葉づかひになりながら、

    「さうですか」

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