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    房一は大きくうなづいて見せた。もう獲物は大分前からとまつていた。

    「まあ、とにかく、御迷惑かもしれないが、一度御足労を願ひたいと思つてね」

    いくらか浮うはつ調子に口の軽くなつた小谷にひきかへ、今夜の練吉は何となく元気がなかつた。細かいながらに絣かすりの目のはつきりした大島の上下揃ひを稍ぞんざいに着こみ、吃り気味に話をする彼には、だらりとした様子と同時に、どこか家風の結果といふやうな一脈の潔癖さが混交していた。

    と、誰かが大声で叫んだ。

    庄谷の細い眼が又微笑した。だが、その瞬間に現はれたほんの少しの人なつこさ、古い記憶のほのめきは、すぐ又大急ぎでどこかへ隠れこんで行くやうに見えた。

    「お前、往診に出てた?」

    「もう遅いんですよ、おぢいさん。泊つてつたらどうです」

    神経質な目ばたきをしながら、練吉は口早に引きとつて云つた。

    これはちっとも可笑おかしくない!彼ら二人は実にいい夫婦なのである。

    「わたしはね、こいつは割れさうだなと思つたもんでね」と、笏で自分のはいている木沓を指して、

    と、ちやうど追鮎箱のところへ立つて行きかけた徳次は、事もなげに云つた。彼はその水際のところでいきなりシャツをはぎとると、バシヤバシヤツと水洗ひをして、それを日に焼けた石の上に乾した。そのまゝ房一と小谷の前に来ると、美事な半裸体のまゝ腕組みをして突立つた。一種単純な、力づくといつた様子が現れていた。

    「いかんと云ふわけもあるまいさ」

    「ねえ、大変!早く」

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