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    「さあね、そいつは今のところ何とも判らんでせうな。何しろこの前に手をつけたのは十年前だつたでせうかね、その時の礦石のかけらも残つちやいませんよ」

    房一はあれから相沢の息子を診みに五六度行つた。殆どその度ごとに会つているので、相沢知吉といふ人物については一通りのことは知つているつもりだつた。同時に相沢の経歴についても聞知していた。

    しばらく黙つていた後で、房一は

    「金色夜叉」はやはり小説であると、わたしは思った。

    「さうか、――そんなに何もかも、こつちでして貰つてもえゝか」

    「徳次」だの、「橋本屋」だの、「殺されかゝつてる」、「小倉組」だのいふ言葉がきれぎれに耳に入つた。

    云ひながら、ぽんと軽く下腹をたゝいてみせた。そして、微笑した、悪戯いたづらつ子のやうな目つきで、ぢつと房一の顔をのぞきこんだ。それは驚くほど巧みな打明けだつた。

    「分家の当主は今は、若い人の代で、たしか喜作といふ筈ですが、あれも随分永いこと県外に出ているさうですな」

    「今晩、寄せてもらつてもえゝですか」

    又とぎれた。

    と、その稍落ちつきのない女らしい黒瞳くろめがちな眼を道平に向けた。

    と訊くと、遊び友達と河へ行つたといふ返事であつた。

    「ねえ、高間さん。どうもこの追鮎は背中に掛り傷があるんで元気がないですよ」

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