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    「さうか、惜しかつたな」

    「さうですか。それは――」

    「うちへもかね」と訊いて置きながら、その自家うちへ寄つて行けとも云はない。房一はふと庄谷の眼尻が人並より下つて、そこが特長のある皺になつているのを認めた。その皺の奥から時々庄谷の眼がこちらの顔を撫でるやうに見ていた。さつきから何度も微笑したやうに見えたのは、この皺のせいかもしれない。

    「ふうん、潰れるだらうな」

    相手はしばらく黙つていた。だが、場所が高いのと、柵の中にいるためか、落ちついて答へた。

    その粗暴な外見とは反対に、徳次はさういふ血生臭ちなまぐさいことが嫌ひだつた。そして、人並外れた敏感さを示すのであつた。今もそれで、彼はいかにも心外げな様子を、その無意識な仕草の中に現していた。

    不幸なことに房一の予測はあたつた。いや、それ以下とも云へた。

    「だいぶ、様子が変りましたな」

    この男が入つて来たとき、徳次の仲間だつた二人の馬喰は急にぴたりと話をやめた。そして、落ちつきのない眼で時々そつと男の方をぬすみ見た。男はぢろりと一瞥した。それは荒い皺が隈取りのやうに走つている顔だつた。だが、それきり三人の方を見ようとはしなかつた。

    「こゝの消防演習をやつたのだ。そんなに騒ぐことはない」

    「はあ――ふむ、うちへもかね」

    「徳さんが新しいのを掛けてくれるまで待つていた方がいいかもしれませんね、これは」

    「なにしろ、迷ふんだな」

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