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    房一は苦笑した。

    「をかしな男だな」

    「さういふあんたはどなたで?」

    「お松は「い」の字と言う酒屋に嫁よめに行ったです。」

    盛子は上から見、下から見しながら、

    「さうだ。大したことはない」

    今彼が得て帰つた「医師高間房一」としての地位は、河原町に対する彼の野気を示すに恰好なものであつた。帰郷以来彼を迎へた河原町の人達の眼に、房一はその証拠を見た。だが同時に、彼が押して得た一歩か二歩を隙さへあれば押しもどさうとするやうな色も見分けた。若し彼が何かの意味で失敗すれば、彼等はすぐに嘲笑に転じ、又あの鈍い圧迫の下敷にして彼の気力を根こそぎにしてしまふだらう。

    「いや、何もしたといふわけぢやない。これから先きのことだよ。かゝり合つちやいかんと云ふんだ」

    「さあね、もうかれこれ二十年にもなるだらうかね」

    「うむ、判る?――ね?」

    「さうさう、先だつてはお加減がわるかつたさうですが――」

    私はもともとヌル湯好きで、いつまでつかっても汗のでない程度が好きだ。

    「いや、挨拶まはりですよ。どうぞよろしく」

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