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    「さあ、一つ拝見しませう」

    入るなり、

    そこには、房一の紅黒い、怒張した顔があつた。いつのまにやつて来たのだらう、徳次はぎゆつと片手で押へつけられたまゝだつた。そして、房一の怒声を聞いた。

    「何でもないぢやないかね、君から聞いたとほりだ。心配することはないと思ふな」

    「さう、知つてる、知つてる」

    その一揃ひの紙衣裳を見て、道平はまじめに感心した。

    好い座敷には床の間、ちがい棚は設けてあるが、チャブ台もなければ、机もない。茶箪笥や茶道具なども備えつけていないのが多い。近来はどこの温泉旅館にも机、硯すずり、書翰箋しょかんせん、封筒、電報用紙のたぐいは備えつけてあるが、そんなものは一切ない。

    さう云ひすてて、大きな音を立てて下駄をひきずりながら立去つたのだ。

    道平はそのまゝ夕食を招よばれて、ゆつくり腰を落ちつけていたが、夜ふけ近い頃になつて、ひよつこり

    「どうぞよろしくお願ひします」

    「ふむ。悧巧者だな、お前は」

    とにかく、それは遠い向ふで起つていることだつた。対岸の火事を見物するやうなものだつた。

    「すみましたよ。さあ。何でもありませんなあ。ぢき起きられますよ。ごく軽いんですからね」

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