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    「まあ、葉書でざつと町内に出しときましたがね」

    今の家へは、温泉がぬるいというのを承知の上で越してきた。

    「はあ」

    徳次はきまり悪げに、しかし、又あのきよろりとした眼つきにかへりながら云つた。

    口を切つたものの房一は頭の中でとまどつていた。あんなに考へていた言葉が今急にどこかへ消えてしまひ、何を云ひ出したのか後をどう云つたものか判らなくなつてしまひさうに感じた。彼はかすかに汗ばみ、そのどちらかと云へば醜いむくれ上つた眉肉や厚い唇が力味を帯び紅ばんで来た。

    と、練吉はわざとらしく顔をしかめてみせた。

    と、加藤巡査はくり返した。

    「さうです、小倉組の方ですな」

    柳里恭りゅうりきょうの『雲萍雑志うんぴょうざっし』のうちに、こんな話がある。

    「お前、往診に出てた?」

    「どうでした」

    「その姿は見えないのですが……。」

    今泉の読んだのは予定記事だつた。だが、早のみこみと、簡単な熱中家が造作もなくつくり上げる本当らしさ、それによつてなほ熱中するといふあの癖とによつて、彼はそれをすでにあつたことのやうに話しこんだ。若し、他にまだ話したくてたまらないことがなかつたら、この報告はもつとくはしく、もつと飛躍しただらう。

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