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    かういふことになると、彼の話振りには一種の無邪気さが現れて釆る。

    暑さはもうなかつたが、生温いぬくもりが時々顔を打つた。房一は空腹を覚えた。それにぼんやりとした疲労があつた。道平が卒倒してからは、まだ一週間になるかならぬかであつた。だのに、もう半年も前から、こんな気忙きぜはしい状態がつゞいているやうに思はれた。

    築地には四五本の木材が立てかけられて、玄関に通じる石畳の上には鉋屑が一杯に散らばつていた。その白いのや紅味がかつた真新しい木の色はふしぎな生気をこの家に与へていた。あの低い大きな屋根がぐつと身を起したやうにさへ見える。

    「ねえ!」

    「だから大事に大事に歩きましたよ。石ころの上を踏んだら一ぺんですからね。いつもこんなに大事に下駄をはいたらさぞ永持ちすることでせうが――」

    と、今やうやく気づいた盛子が叫び声をあげた。

    一わたり済むと、練吉は最後にもう一度注意深く病人の顔をぢつと眺め、

    二人は今船で流れの上を渡つていた。綱を手繰たぐる徳次のわきには房一が自転車のハンドルをつかまへて立つていた。全体に銀白色の金属でつくられたこの自転車はいかにも新しげだつた。それさへ、徳次の目には医療器具か何かのやうに特別な機械に見えた。

    「うむ、さうか。玄関のことか」

    「ふうむ。いや、よからう」

    「きさまか、鬼倉ちふのは」

    「どうもこれぢや――」

    その時やつと、男は少しうなづいた。そして背中に負はれて出て行つた。

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