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    「さうです、さうです。さつきも少し遠乗りをやりましてね。帰つて来たばかりなんです。どうしてもこの辺は馬ででもないと、用達しが不便でしてね。町へもこれで出かけます」

    「もう河原町へは当分帰る気はないんですかね。貴方にお貸したところをみると」

    この「芋の子」は小学校を卒業するとすぐ畑へ追ひやられる筈であつたが、成績がよかつたのと彼の願ひによつて高等科に上ることになつた。その二年の間に彼は身体も心もめつきりと成長した。年齢の若さから来る皮膚の艶や筋肉の柔かさは争へなかつたが、骨格は骨太でがつちりしていた。彼の粗暴さが今はすつかり姿を消して反対に或る素直で従順な所が出て来ていたので、彼の骨格の逞ましさが何となく滑稽な愛嬌のあるものにさへ見えた。しかし彼の額には年に似合はない一本の深い皺が出来ていた。それは時々非常に深く黒く見えることがあつた。それを見ると、人は彼の中に案外な考へ深さのあるのを認めて驚くのであつた。

    「まあ、――上の町の大石さんとこ位は行つとくのもよからうが」

    房一は笑つていた。

    房一は前の方を向いたまゝだつた。

    と、案外冷静に云つた。

    「あれは本当ですかね、相沢さんが訴訟を起したと云ふのは?」

    と、おづおづ答へた。

    「どうして又今まで黙つていたのかね」

    かりるに当って女房が挨拶に行ったら、温泉のぬるいことを例外なく念を押して、

    読経どきやうはまだ始まらなかつた。

    庄谷の細い眼が又微笑した。だが、その瞬間に現はれたほんの少しの人なつこさ、古い記憶のほのめきは、すぐ又大急ぎでどこかへ隠れこんで行くやうに見えた。

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