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「はい、あの、切れて居りますが」
真黒い顔の男が傍によつて訊いた。
房一は擽くすぐつたさうな顔をしていた。
「な」の字さんは翌年よくとしの夏にも半之丞と遊ぶことを考えていたそうです。が、それは不幸にもすっかり当あてが外はずれてしまいました。と言うのはその秋の彼岸ひがんの中日ちゅうにち、萩野半之丞は「青ペン」のお松に一通の遺書いしょを残したまま、突然風変ふうがわりの自殺をしたのです。ではまたなぜ自殺をしたかと言えば、――この説明はわたしの報告よりもお松宛あての遺書に譲ることにしましょう。もっともわたしの写したのは実物の遺書ではありません。しかしわたしの宿の主人が切抜帖きりぬきちょうに貼はっておいた当時の新聞に載っていたものですから、大体間違いはあるまいと思います。
男はうむを云はせなかつた。
「うむ」
次に記すのは、ほんとうの怪談らしい話である。
「いや、わたくしもね、すぐさう思つたんですが、どうも、こんなところで、思ひがけなかつたもんで――さう、さう、先日は失礼しました、つい出ていたもんですからお目にかかれなくつて、そのうち伺はうと思つていたんですが」
「それをよこしたまへ。二足なんていらんよ」
房一はすつかり夢中になつていた。
房一は前の方を向いたまゝだつた。
宿の者はこういっただけで、その以上の説明を加えなかった。伊助の報告もそれで終った。
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