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「うん、おれもこないだ通り合せたんだが、前を山支度の娘が寵をかついで歩いているんだな、するとやつぱり大声でからかつとつたよ」
それはまるで、よほど深く知り合つた間柄の、何年か見ずにいた者同士だけがやるやうな並外れて馴れ馴れしい様子だつた。
「まあ、のみなさい」
房一は慌てて、診察にかゝつた。その後で彼は云つた。
「かりに、おれが真正面から反抗的に出て、それがために住みにくくなつたとしても、同じことだ」
「痛むか?」
「ふん」
並んで立つと、いきなり
「だいいち、あすこの小倉組の親方といふのがね、うちの店へもたまに買物に来るんだが、鬼倉といふ綽名がある位でね、見たところ痩せつぽちのさう強さうもない奴なんだけどね、すごいんださうだ。――こないだも郵便局で見た人があるんださうだが、配下の者が何かしつこく不服を云つたら、いきなりかう、二本の指でね――」
「もうこんなに暗くなつているのにね、何してるんでせう」
「坑には入つてみたんかね。あすこはもう何年も入つた人がないちふことだが」
今日見るその顔は、色こそ黒かつたが、地蔵眉の、眼もそれに釣り合つて細い糸を引いたやうにやさしかつた。だが、その声には何かきつぱりした、率直さが感じられた。
「あ、神原の喜作さんだ」
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