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    「どうもおれは、身近かな者だと平気で診られないんだね」

    ――「やあ、おいでなさい。わたし相沢です」

    患者の多くは近在の農夫達であつた。それは大体に於いて、開業以前に予想していた通りだつた。鈍のろい、ゆつくりした口調で声をかけながら、彼等はおづおづと高間医院の玄関を入つて来る。彼等は医者に診てもらふためにわざわざ河原町へ出て来るのではなかつた。農具とか種物とかを買ひに出て、ついでに立寄るのであつた。それで、彼等の病気はすでに治療の時期を失しているか、でなければ手のつけられない慢性のものが多かつた。

    房一はきつぱり云つた。男は、これは話が判る、といふやうな顔をした。それに押つかぶせるやうに、

    房一はむつつりとしたまゝ答へた。

    徳次は房一が顔を洗ふ間傍に立つて眺めていた。それからふいに訊いた。

    「もうこんなに暗くなつているのにね、何してるんでせう」

    「さあ、くはしいことは判りませんね」

    「今日からお隣へ参りましたから、よろしく願います。」

    町の一部では房一が「席を蹴立てて帰つた」といふ評判だつた。それが何か乱暴でも働いた、といふやうに伝つて、噂を聞いた老父の道平は河場からわざわざ様子を聞きに来た。

    「いや、――わしはそんなこたあ嫌ひだ」

    「ほう、さうか。毎年あるのかね。そいぢや、これから度々見られるわけだな」

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