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    「ねえ!」

    「さあ、一つ拝見しませう」

    「あれだね、君は見かけによらない――親思ひなんだね!」

    だが、あれだけの人数を僅か三四十分の間にどうして引上げさせたものだらう。本署から自動車で署長以下がやつて来るといふ噂も効果があつたにちがひないが、房一はじめ、神原喜作も練吉も小谷まで、それから後から馳けつけて来た四五人の主だつた連中も声をからして説得してまはつたので、又、半鐘が鳴つてからもう三時間近くもたつていたので恐しく冷えこんで来た夜気は焚火にあたつている側だけが熱いばかりで、背中がぞくぞくするほどだつたから、容易に引上げなかつた人達もさすがに疲労し、興奮がさめ、三々五々散らばつて行つたのである。

    その通り、近くに似たやうな河はいくつもあつたが、それは鮒がたくさんとれると思ふと鮎がさつぱり駄目だし、うす濁りがしているし、ずつと先の木ノ川は河幅こそ広く水もたつぷりしているがあんまり大きすぎてよほど上流まで行かないと鮎をとる手立てがない、してみるとやはり、この吉賀川は彼等の口にするごとく「名うて」の川にちがひなかつた。

    「やあ、しばらくで」

    「もうこんなに暗くなつているのにね、何してるんでせう」

    と、全然ここの温泉を軽蔑しきっていたそうで、婆さんが絶え間なくタオルで全身摩擦しながら意地ずくでつかっている温泉とは何度ぐらいだろうと興にかられたが、調査もせずに引越した。

    房一には連れが二人あつた。

    「往診?ふむ、ふむ」

    「房一の仕わざではないか」と云ふことになつて、一同が手分けをして近所を探した。すると、老父が河へ下りる路の手前で馬に跨つている房一を見つけた。馬は此方へ向いてゆつくりと歩いていた。房一は父を見ると、彼の方から大声に父の名をよんで、馬上に得々としていた。後で皆が訊くと、馬は河へ下りる路の所までは楽に行つたが、そこからはどうしても下りなかつた、そして、彼が腹を蹴りつづけると、馬はくるりと向きを変へて家の方へ勝手に歩いて来たのだ、と云ふ。一同は大笑ひをしたが房一は小ましやくれた生まじめな顔で、まだ酔つたやうな眼をきらつかせていた。

    とにかく快適に入っていられるのだから、体温よりちょッと高い目の三十七八度ぐらいだろうときめていたが、温度計を買ってきて測ってみたら、三十四度五分であった。もっとも、私の平熱は三十五度である。胃に冷感をうけるのは、やっぱり体温よりも低いせいだな、という当然なことが、その時になって、はじめて納得できた始末だが、体温と同じ水温なら入浴は快適だという結論も得たのである。

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